ヴィンセント・ギャロの初監督映画『バッファロー'66』が9月5日にBlu-rayとなって発売される。この作品のファンの人は多いと思うのだが、散漫でありながら一本筋の通った物語もさることながら、映像面でもなかなかのセンスが感じられる面白い構図がいくつかあり、私にとってもプログレを聴き始めるきっかけを与えてくれた映画なので思い入れがある。
私はいつも映画を物語で記憶していることが多いのだが、先日この映画を数年振りに観たら、物語の中心となるビリーとレイラのロマンスはなんとなく記憶していたけれど、刑務所でのビリーだとかスーパーボウルのくだりだとか、細かいプロットはほとんど覚えていなかった。そのかわりに映像は断片的だが写真のようにはっきりと記憶していて、賛否両論はあるだろうが考え抜かれた構成であることは確かだろう。私も歳を取ったせいなのか、以前であれば手放しで褒めちぎっていたであろうギャロのセンスに関しては少し鼻につくようなところもあったのだが、独特のアングルで撮られた場面ごとの構図は本当に面白い。
レイラを誘拐して車に乗り込むシーンをずっと上から撮っていたり、家族でテーブルを囲んでいる場面の4方向からのシークエンス、ビリーと友人のグーンが電話で話すシーンの固定カメラの使いかた(最初、ビリーは画面のやたら左下にいて画面の半分以上を白い壁が占めているのだけれど、ビリーが立ち上がるときれいにカメラの中心に収まるようになっていて、逆にグーンのほうははじめから画面にきちんと体が収まっているのだけれど立ち上がると腹しかうつらなくなる)、これらがなにか特別な効果を生み出しているというわけではないように思うが、一瞬一瞬の絵の切り方には唸らせられる。
あとやはりすごいのが、ビリーがスコットを撃ち殺す場面の映像は何度観ても素晴らしい。このシーンだけでもギャロが映画を撮った価値はあったのではないか。こうした彼の独特のセンスで構成された映像に見事にマッチする音楽の選抜もなかなかすごい。クリムゾンの『ムーンチャイルド』でレイラにタップを踏ませてみたり、クライマックスに流れるイエスの『燃える朝焼け』だとか、一度観たら忘れられない印象的なシーンの多いこと。
アメリカ資本なのだが、字幕や作品を覆っている雰囲気もヨーロッパ映画を意識して作られたように感じられる。一般的には奇をてらったお洒落系ラブストーリーという認識かもしれないが、私のなかでこの映画は完全にコメディである。
動画はギャロ自身が編集した予告編。
2013/01/12※削除されましたので差し替えました。
バッファロー '66
製作年:1998年 製作国:アメリカ 時間:118分
原題:Buffalo '66
監督:ヴィンセント・ギャロ
撮影:ランス・アコード
音楽:ヴィンセント・ギャロ
出演:ヴィンセント・ギャロ,クリスティーナ・リッチ,アンジェリカ・ヒューストン,ベン・ギャザラ
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