2012-01-04

彼が生まれてきたのは、既製の美を掻き集めるためではなく、未成の美を作り出すためであった(2)

彼、とはゲンスブールである。

バルドーとの出口なしの愛に終止符を打ったゲンスブールは、心の傷も癒えぬまま一本の映画に出演することを決める。のちに世紀のカップルが誕生した記念碑的映画として語られることになるピエール・グランブラの『スローガン』である。1968年5月、ゲンスブールはイギリスからやってきた若干21歳の小娘、ジェーン・バーキンに出会う。



二人の出だしは最悪であった。ゲンスブールは無名のイギリス娘が相手役であることに腹を立て、フランス語の発音が気に食わないなどと19歳も年下のバーキンに対して大人げない態度をとる。事あるごとに彼女を槍玉に挙げては、内心、バルドーとの破局後、傷ついた心のやり場をなくしていたようでもあった。バーキンは、初めてゲンスブールに会ったときの印象を嫌なやつだと思ったと言っている。撮影のあいだじゅう、イライラと激高しているゲンスブールが怖くて仕方がなかったとも、しかしそんな彼に一目惚れをしたとも。

映画の撮影が順調に進むわけもなく、見るにみかねたスタッフが二人きりで食事をさせようと画策。するとその翌日には二人は手をつないで撮影にあらわれ、映画の内容そのままに恋人同士になっていた。翌年、二人は結婚する。のちに娘のシャルロット・ゲンスブールが生まれるのは承知のとおりであろう。


ゲンスブールはある日バーキンの鼻歌を耳にして、かつてバルドーに捧げ、封印した、あの『ジュテーム・モワ・ノン・プリュ』を再度、彼女と録音することに決める。バルドーとのデュエット同様にバーキンによる喘ぎ声と、性行為あらわすような男女の睦言がひたすら流れるこの曲は、ローマ法王が過激だと激怒し、放送禁止の声明を出したほどであったが、ヨーロッパでは大ヒットする。ちなみに『Je t'aime moi non plus』を日本語に訳すと、「愛しているわ、でも僕はそうでもないよ」といったぐあいになるのだが、ゲンスブールはこのように微妙なニュアンスを含んだ歌詞を好み、言葉遊びを楽しむ天才でもあった。

バーキンにとってはこれが歌手デビューとなったのだが、おそらく聴く人によってはヘタクソ極まりない歌である。さらにイギリス訛りが強いため、フランス語の発音もままならないのだが、なぜかそれが生々しいエロティシズムを感じさせるのである。歌手になりたいという夢を抱いたこともあったというものの、歌の経験は全くなかったバーキンは腹筋が弱く、高音が不安定なか細い声であったが、ゲンスブールはその後、彼女の弱点を最大限に利用するような曲を無数に書き、歌わせる。1969年に二人の連名で発表した『ジェーン&セルジュ』はフレンチ・ポップの金字塔的なアルバムといえるだろう。

バーキンはイギリスで活動していた頃、ミケランジェロ・アントニオーニの映画『欲望』のなかで、映画史上初めてヘアをさらした女優として、もともとスキャンダラスなイメージを持ちあわせてはいたが、『ジュテーム・モワ・ノン・プリュ』『69年はエロな年』といったゲンスブールとのデュエットで彼女のイメージは決定的になった。そしてナボコフの崇拝者でもあったゲンスブールは、バーキンを得たことで理想のロリータを具現化してみせることに成功したのだった。それはフランス・ギャルでは失敗したことであり、ポップスは所詮、二流芸術だと自虐的に言ってみせる彼の、密かな勝利宣言でもあっただろう。

ゲンスブールは「ジェーンは俺が待ち望んでいた女だ」と語る。それはバーキンにとっても同じだろう。聡明な彼女はのちにゲンスブールのために尻軽イギリス娘を演じ続けていたのだと、苦しかったのだと告白した。しかしロンドンのチェルシーをスウィングしていた小娘を、ジェーン・バーキンという美しい女に完成させたのは間違いなくゲンスブールであろう。彼が生まれてきたのは、既製の美を掻き集めるためではなく、未成の美を作り出すためであったからだ。


ゲンスブールについてはまた書くだろうと思います。
明日は2012年1月4日現在、世界でもっとも美しい私の友人について書くつもりでいる。

掲載した画像は私が所有しているゲンスブールの写真集からスキャンしたものです。

2 件のコメント :

  1. こんにちは。はじめまして。
    アンナ・カリーナの画像検索をしていたら辿りつきました。
    趣味が似ているので楽しく読ませて頂きました。
    この写真集のセルジュとバーキン、すごく素敵!
    私が持っている写真集には載っていないので欲しいです!
    もし良かったら、この写真集の詳細を教えて頂けませんか?

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    1. こんにちは。はじめまして。コメントありがとうございます!
      こちらの写真集は「Gainsbourg et caetera」という大型本の洋書で、著者はGilles Verlant&Isabelle Salmon、発行はVade retro、CDがついています。Amazonで検索してみたのですが、取り扱いがないようで詳細なリンクを貼れなくて申し訳ないのですが、私はオークションで手に入れました。黒い背景に白と青字でタイトルが書いてあって、セルジュの顔が大きく載った表紙です。もしかしたら現在も出品されている方がいるかもしれないので、よろしければオークション等でチェックしてみて下さい。セルジュの幼少時代からの写真と、フランス語ですが資料も豊富に載っていてデザインも素敵な本です☆

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