2015-08-08

TEMPLES テンプルズ『Sun Structures』(2014)


スウィンギン・ロンドンの嵐が吹き荒れるカーナビー・ストリートをBIBAのワンピースを着て闊歩するのが夢だった。アントニオーニの『欲望』に描かれたあの時代の、曇り空のロンドンを生きるのが…… 仲間とLSDを嗜んで、お気に入りのレコードをかけて夜を踊り明かす。ビートルズの新譜を心待ちにしながら、不良ぶっているストーンズにもひそかにオネツで、部屋には案の定ドアーズのポスターが貼ってあったりして、ボーイフレンドはきっとクリームやバーズに夢中……

TEMPLES(テンプルズ)のデビューアルバム『Sun Structures』は、そのような幻想が2014年の今にでも現実のものになるのではないかという錯覚をもたらしました。2012年にロンドン郊外の田舎町で結成された20代半ばの彼らは、ギターサウンドを基調とした典型的な4ピースバンドではあるのですが、リバーブが深くかかった浮遊感溢れるサウンドにクラシックなサイケデリック・ロックの幻影を展開してみせます。甘い呪文のようなハープ、華やかに揺らぐ鈴の音、哀愁を帯びた魅惑的なオルガン、やけに反響するドラム、豊かに歪む12弦ギター。はたまたジョージ・ハリスンが用いたインドのへんてこな音、カート・ベッチャーの魔術的なハーモニー、不意に繰り出されるボラン・ブギー……



いかにも60年代的な、あるいは60年代の影響を直に引き継いだ70年代の音楽シーンを否応無しに浮かび上がらせる彼らの楽曲に、特出した真新しさを見出すことは難しいかもしれませんが、テンプルズの魅力はむしろレコーディング技術が進歩した現代に徹底して60年代の音そのものを作り出そうとする姿勢にあります。それを懐古主義と一笑することは簡単ですが、ここまで露骨に馬鹿正直に、60年代への愛を表出するバンドの出現を私たちはずっと待ち焦がれていたのではなかったでしょうか。音楽が力を持っていた時代を愛し、音楽の可能性を頑に信じている新たな世代が世界中に散らばり、世界が熱狂したひとつの時代に想いを寄せている……テンプルズの登場はまさにその現実を象徴する出来事であって、彼らは古きものへの憧憬が露呈されることを怖れずに、デビューアルバムをもって啓示しました。

ヒッピーは絶滅し、サマー・オブ・ラブはとうの昔に終焉を迎え、もはやどんなに切望しても曼荼羅にテクニカラーを塗りたくったあの時代を生きるという願いが叶うことはありません。ですが、作り出すことはできるのです。それは必ずしも時代の逆行を示すものとは限らないでしょう。テンプルズの屈託のないやさしいメロディーは未来を祈るように響きわたります。シド・バレット―マーク・ボラン―デヴィッド・ボウイ……UKロック史における偉大な道化師の系譜を見事に踏襲したかのような佇まいのフロントマンに、私たちはスターの面影を重ねながら、いま、壮大な夢を託そうとしているのかもしれません。

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2015年2月22日に開催された Hostess Club Weekender にて彼らのステージを真近に観ることができたのですが、意外や意外、なかなか骨太なロックを響かせてくれた驚きと、若い女性の黄色い声が耳に残っています。かく言う私もミーハー心丸出しで前方へ移動し、浮世離れした甘いルックスにうっとりしていたのは言うまでもありません。


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