2012-01-03

彼が生まれてきたのは、既製の美を掻き集めるためではなく、未成の美を作り出すためであった(1)

元日にプルーストの文章を載せたが、その記事に登場させてもいる私のノートのなかに、プルーストに関して次のような文章も書き込まれてあった。



彼(プルースト)は生涯の終りに至るまで、自分の部屋を悪趣味だが神聖な物品で満たしていたが、それらは彼に、死んだ両親、自分の幼少時代、失われた時について語りかけるのであった。彼が生まれてきたのは、既製の美を掻き集めるためではなく、未成の美を作り出すためであった。(ジョージ・ペインダー)



情けないがどの書物から抜粋したものか把握しておらず、さらにジョージ・ペインダーなる人物が分からないので検索してみると、プルーストの伝記を書いた人物のようである。(彼の本は読んでいないのだが、プルーストの伝記であればエドマンド・ホワイト氏による『マルセル・プルースト』が面白かったと記憶している。偶然なのかわからないが著者も同性愛者であり、「ならでは」の視点が持ち込まれた新しいプルースト伝である。)

さて、昨日の記事で予告していたように、今日は昨夜の時点で私が世界でもっとも愛する男について書こうと思うのだが(今さらながらだいぶ誇張された予告ではある)、引き続きプルーストの話なのかとしかめっ面をされていた方には朗報である。今日の主役はプルーストではない。ジョージ・ペインダーによるプルーストに関する上の文章を引用したのは、本日の「私の好きなもの」である人物の一面をひじょうにうまく表しているように思えたからである。


「彼が生まれてきたのは、既製の美を掻き集めるためではなく、未成の美を作り出すためであった」


ここでいう既製の美とはブリジット・バルドー、未成の美とはジェーン・バーキンである。
そして彼とは、20世紀最後のデカダンなオヤジ、セルジュ・ゲンスブールにほかならない。

セルジュ・ゲンスブールについて語るべきことはもはや何ひとつ残されていないのではないか?そう考えるのは私だけではないだろう。彼ほどスキャンダルをベースに活動していた音楽家はいないからだ。自らプライベートを切り売りして、そこに喜びを見出していた男である。おそらく今日もこの暗くて湿っぽい場所以外の、世界中どこかのブログで彼の美しい音楽について、それ以上に酒、煙草、女をめぐるエピソードが武勇伝として語られているだろう。そして私はゲンスブールが愛し、創造した、既製の美と未成の美について書こうとしている。これもまた、語り尽くされたお話だ。


画家になる夢を諦め、ピアニストの道を選んだゲンスブールは30歳で歌手デビューするも、暗い歌詞ばかりを歌うさえないシャンソン歌手の一人とみなされていた。彼に転機が訪れるのは1965年、18歳のフランス・ギャルに『夢見るシャンソン人形』を書いて一躍名声を得、これがフレンチ・ポップス(俗に言うイェイェ)の幕開けとなったことはあまりにも有名な話だ。

ゲンスブールとバルドーが出会ったのは実はそれ以前の、1959年、『気分を出してもう一度』(原題:Voules-vous danser avec moi?)という映画での共演である。当時、バルドーはすでにトップ・スター、ゲンスブールはただの歌い手のひとりでしかなかった。二人が恋人同士になるのはまだまだ先の話で、1962年頃から楽曲の提供などを行うようになるも、本格的な恋愛関係に陥るのは「ブリジット・バルドー・ショー」というテレビの企画で共演した1967年の秋頃からである。

これはバルドーの歌とダンスを特集した番組で、『ボニー&クライド』『ハーレイ・ダビッドソン』『コミック・ストリップ』などの名曲が、デュエットの相手であり恋人、不倫相手(バルドーはこのとき人妻)でもあるゲンスブールの手によって次々と生み出される。そして、バルドーに「世界でもっとも美しい曲を書いて」と言われて生まれた、かの有名な『ジュテーム・モワ・ノン・プリュ』もこのとき録音される。しかしセックスを連想させる歌詞と喘ぎ声の演技がはさまれたデュエットは人妻であったバルドーの意思によってお蔵入りとなる。これをきっかけに二人の関係も、燃えさかる炎が消える頃合いをまたずに(特にゲンスブールにとってはかなりの痛手であった)終わってしまうこととなる。

67年のフランスを熱く駆け抜けたスキャンダラスなカップルはこうして伝説となり後世へと語り継がれていくわけだが、バルドーとゲンスブールの蜜月関係はなんとわずか三ヶ月(!)という短い期間であったということはあまり知られていない。


画像は私が所有しているゲンスブールの写真集からスキャンしたものであるが、一枚目のゲンスブールの表情がすげーいいです。ひょっとしてジェーンとのツーショットでも見たことがないのでは?と思わせるような、いい顔だ。とにかくいい顔。完全に恋する男の顔である。すでに完成されたスターに自ら手ほどきをするのは、ゲンスブールにとって涙がでるほど嬉しかったに違いない。のちにゲンスブールは、バルドーと関係を持ったことでユダヤ人で醜男という深く重いコンプレックスが軽減され、自信を持ったとまで言っている。さて、興奮してきたところで続きは明日に書く。

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