Musette『datum』2009 |
ミュゼットはスウェーデン人、Joel Danell(ヨネル・ダネル)によるソロユニットで、主にピアノ、アコーディオン(ミュゼットという名前も狭義の意味で由来している)、口笛、ギター、バイオリン、ウッドベース、オルゴールといった楽器を使用した環境音楽である。
彼の紡ぎ出す作品の特徴はなんといっても、最近のヴォーカルのないインストルメントとしては珍しくコンピューターでの加工をいっさい行っていない録音方法である。と、このように書くと地味な印象を持たれるかもしれないのだが、いや、ノスタルジックなあたたかみのあるピアノの音などを再現するために、ピアノの中に毛布を入れて叩き出しているというのだから、実際に地味な作業はしているのであるけれども、アコースティックな楽器だけによる演奏の素朴さというか素直さというか、彼の音楽に取り組む姿勢が気取らず、誠実でなものであることがなによりもシンプルに伝わる作品となっている。
そんな優しさに溢れた音ばかりを集めたのがこの『datum』(ダートゥム)というアルバムである。「datum」とはスウェーデン語で「日付」を意味する。その名のとおり、アルバムに収録された曲名はすべて日付である。ヨネル自身がカセットテープに日々録り溜めておいた四季折々の記録を、仲間とともに録音しなおしたのがこの『datum』なのである。
ピアノの音がクッションのように心地良く響く、川原で春の日差しをあびて寝そべっているような感覚をおぼえる作品もあれば、どことなく西部劇の乾いた荒野を放浪する場面を思わせるような口笛を主役にした作品もあり、サイレント映画のモノクロの世界を軽快に揺らすような作品もある。すべての作品に共通しているのは羽根のようにやわらかなピアノと、ざらついたノイズがかすかに含まれているような、クリアではないどこかくぐこもった音であることだ。これらはアナログの懐かしさを感じさせ、アコーディオンの音はレトロな雰囲気を醸し出し、繊細なピアノにほんのすこしセンチメンタルな気持ちになる。
タイトルの日付から連想される季節の記憶をたどって音に耳を澄ませて懐かしむのも、やさしい子守歌として眠りに落ちるのも、様々な顔をのぞかせる音から空想世界の映像を思い描くのもまたよいであろう。このアルバムにはそんな多種多様の楽しさや癒し、懐かしさ、情緒的なシーンがぎゅっとつまっている。
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