2013-06-22

サントラはお好き?(2)『男と女』音楽:フランシス・レイ、ピエール・バルー


それまで無名であったクロード・ルルーシュが10人足らずのスタッフと、わずか三週間で作り上げた『男と女』(1966年・フランス)は数々の映画賞に輝き、フランシス・レイ作曲による「ダバダバダ〜」の主題歌でも有名。ダバダバ・スキャットとフランス語の響きが醸し出す物憂い雰囲気は、数多ある恋愛映画とは一線を画すように思う。

初めて観たのは二十代前半のとき。知的で情熱的なレーサー、ジャン=ルイ・トランティニャンとギリシャ彫刻のような絶世の美女、アヌーク・エーメのカップルが、ただただひたすらに眩しかった。降りしきる雨のなか、ワイパーが作動するガラス越しでの車内の会話シーンが目に焼き付いている。そして耐久レースの後、埃まみれになったボロボロの車で六千キロもの距離をぶっ飛ばしてアンヌのもとに駆けつけるジャン=ルイに惚れ惚れ。

そう、この映画は車が重要な脇役として物語を盛り上げるのだ。モンテカルロ・レースだとか(実際に登録して出場してしまう監督の心意気にも驚き!)フォードのプロト・タイプだとか言われても女の私にはまるでお手上げだけれど、なぜだかそのことがろくすっぽ理解できない男の世界を象徴しているようにも思えたのだった。

ある程度の歳を重ねてからでないと本当の意味でこの映画の惹き付ける魅力というものは分からないのかもしれない。しかしながらモノクロとセピアを織りまぜた小憎たらしい演出(ただ単に予算が足りなかっただけらしい)と、繰り返されるボサノヴァの甘いメロディーにのせて描かれる大人の男女の真理は、若い娘をも陶酔させるだけの説得力があった。そしてシンプルだけれど美しい、この映画のような男女の物語に憧れながらアンニュイな気分に浸りたいとき、背伸びして何度もこのサントラを聴いた。



思わず口ずさみたくなる「男と女のテーマ」を歌っているのは、共に監督の友人であるニコール・クロワジールとピエール・バルー。バルーは俳優としても出演していて、アンヌの亡き夫役(ブラジル音楽を愛するスタントマンという設定)で、ギターを弾きながら歌声を披露している。それもそのはず、彼は十代の頃に音楽活動をしながら各国を放浪し、ポルトガルで出会ったブラジル音楽に陶酔、のちに「Saravah」(サラヴァ)というレーベルを立ち上げ、数々の名盤をフランスから発信した人物だ。

バルーがフランス語で歌う「男と女のサンバ」もテーマ曲に劣らず素晴らしい!(原題は「samba saravah」)劇中ではアーティストのビデオクリップのような扱い方をされていて、当時はこれが画期的な手法だった。『男と女』は映像と音楽が総合芸術であることを再確認させてくれる映画であり、さらにブラジル音楽の素晴らしさも伝えてくれるのだ。



僕の幸せを求め 陽気に笑い 歌う/心ゆくまで味わう 人生の喜び/
哀愁のないサンバは 酔えない酒と同じ/そんなサンバは心に響かない/

哀愁のないサンバは まるで美しいだけの女/これはモライスの言葉/
詩人の外交官 この歌の作詞家/"黒い白人"と公言した男/
僕もブラジル風フランス人/恋のサンバを語る/
恋人に口も利けぬ男が 彼女を歌でたたえる/

こんなサンバに不快な人もいるだろう/困った流行だと嫌う者もいるだろう/
僕は世界中を巡り/放浪を重ねて捜し求める/
深い歓びを/サンバを踊り続けよう/

ジョアン・ジルベルト、カルロス・リラ、ドリバル、アントニオ・カルロス・ジョビン、モライス、バーデン・パウエル
この歌を始め 名曲の生みの親たち/敬意を表して 大いに飲もう/
いざ乾杯 偉大な作曲家たちよ/サンバの申し子 サラヴァ!

ピシンギーニャ、ローザ、D・デュラン、シルビオ・モンテロ
そしてエドゥ・ロボと/ここにいる友人に乾杯/
バーデン、イコ、オズワルド、ルイジ、オスカル、ニコリノ、ミルトン
サラヴァ!

その名を聞くだけで 僕は身が震える/感動を呼ぶ数々の名/
サンバをたたえよう

バヒアの港から生まれた このリズムと詩/
サンバを踊り 苦しみを忘れた日々/
万感の思いを込めた歌
その言葉は白人のものでも
これは黒人の魂を/万感の思いを込めた歌
その言葉は白人のものでも
これは黒人の魂を/万感の思いを込めた歌
—『男と女』より



「サラヴァ」とはポルトガル語で、"神の祝福があるように"という意味。この曲には元々、「イパネマの娘」で知られる詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスによるポルトガル語の歌詞があり、バルーはフランス語版を作詞した。バルーの歌詞にはボサノヴァの生みの親である音楽家たちの名前が列挙されていて、次から次と歌われる名前を聴いているだけでも楽しい!フレンチ・ボッサの先駆けともいうべき名曲であろう。




男と女 オリジナル・サウンドトラック
サントラ ピエール・バルー ニコル・クロワジーユ
オーマガトキ (2004-12-01)

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