2012-11-18

ルー・リード

誰もがみんな、かれに恋してた。誰もかれもがね。すっげえセクシーだった。みんな、ひどくオネツだった......かれ以上にセクシーな人間なんて、あの頃、ほかには見当たらなかった。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代のかれっていうのは、ニューヨークにいたみんなの一番の性的憧れの的だった...




ルー・リードの唇が好き!などと書いてしまうと、どこかヘンタイめいた趣の内容になってしまいそうだけれど、ヴェルヴェッツ時代のルーはセクシーでチャーミングだったにもかかわらず、その素敵な容姿について語られることはまずない。まあ殊更に語る必要もないわけだが、私はルーの顔が好き。ガラガラヘビみたいな口元が特に好き。くっきりとした輪郭に口角がきゅっと上がっていて本当にセクシーなんだもの。“ひどくオネツ”っていう言葉も誇張されたものではないと思う。この、冒頭に引用した証言は音楽誌の編集者だったダニー・フィールズによるものだ。この人、ポールの嫁リンダの親友だったり、ドアーズのジムにニコを紹介したりイギーやラモーンズのマネージャーもやったりして、すごい経歴の持ち主である。

上の動画、ルーの唇マニアが思わず狂喜乱舞するであろう映像!(コーラの瓶になりたい...というコメントに共感する気持ちも分からなくはないけれど...)これはウォーホルによるスクリーンテストと呼ばれている作品で、1964年から66年のあいだにファクトリーに出入りしていた人物を肖像画のようにカメラに収めたもの。これがものすごい人数にも及ぶらしい。DVDも発売されたけれど今は廃盤になっていて入手し難くなっている。デニス・ホッパー、ボブ・ディラン、ニコ、イーディ、ギンズバーグといったお馴染みのメンバーや、ウォーホルの映画に出演していた連中の顔はYoutubeでも見ることができる。


スクリーンテストにも顔を出しているディランがファクトリーとウォーホルの取り巻き連中を嫌悪していたというのは有名な話だけれど、ルーもまたファクトリーから距離を置いている人間のひとりだった。ルーは表面的にはファクトリーにうまく溶け込んでいるように見せかけながら最後まで完全には染まることはなかったのだ。ウォーホルはあらゆる人物にファクトリーを解放していたが、そこに集まる連中のやることなすことをすべて黙認するというのが彼のやりかたであり、面白い人物がいればひそかに観察することを好んだ。ルーはそんな覗き趣味のウォーホルをさらに観察し、ファクトリーで起こった出来事をネタに物語を引き出していった。ルーはつねに傍観者であり続けた。

スピードを打ちまくって三日に一度しか眠らず、あらゆるドラッグから引き起こされる症状をソングライティングに反映するという実験を試みていたルー。誰もが彼にオネツだったけれど、一方では偉大な才能、小柄な悪魔とも畏れられる。





しかし、ニコ曰く「ルーはとても優しくて、素敵な人だった。ぜんぜん攻撃的じゃないの。初めてかれに会った時、愛しくて抱きしめちゃいそうだった」そうである。ニコは本当にルーのことが可愛くて仕方がなかったらしく、あまりの可愛さにしょっちゅうホットケーキを焼いてあげていたそうだ。初対面の相手を「愛しくて抱きしめちゃいそうだった」というのはニコにしかできない発言であろう。ニコ姉さんレベルのオンナになると言うことが違う!のだ......。

それでもニコの「とても優しくて」という言葉に偽りはないのだろうという気がする。私がルー・リードの音楽でまず思い浮かべるのは『pale blue eyes』や『perfect days』や『〜says』といった優しい曲だ。ヴェルヴェッツのアルバムも3rdと4thを聴くことが多い。俺様至上主義的な発言が目立つルーは大胆で攻撃的で、観客の前でヘロインをぶっ射すという伝説、歌詞の内容から退廃的、破滅的なイメージを持たれることが多いけれど、本当に無茶苦茶な人のではなく、ルーが明知の人だからだ。(いや、当時は無茶苦茶だったのかもしれないけれど)それに、己を知っている人間、自分自身を客観視できる人間というのはたいがい自分のこと以上に他人に対する優しさを持ち合わせているように私は思うから。だからこそヴェルヴェッツの、ルーの、攻撃的で暴力的なサウンドの裏側にはいつも優しさがつきまとうように感じられるのかもしれないな。



Velvet Underground
Velvet Underground
posted with amazlet at 12.11.17
Velvet Underground
Polydor / Umgd (1996-05-07)

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