2012-01-01

プルーストと元日、初心表明のようなもの

プルーストが元日についてこう書いている。
これは『失われた時を求めて』の第一部「シャンゼリゼのジルベルト」というタイトルのつけられた項の一部であるが、想いを寄せるジルベルトと仲違いをした主人公が、年の暮れにもう長い時間彼女に会えないことを嘆いている場面である。



これはもう私にとって既知の時間であった。私はそのときはっとして予感を覚えた。元旦はほかの日と違った一日などではなく、新しい世界の始まる第一日目でもないのだった。そういう新しい世界でなら、<天地創造>の時のごとく、まるで過去がまだ存在しないかのように、またそれまで何度もジルベルトにがっかりさせられたことも、そこから未来のための手がかりを引き出すことによってあたかも消滅してしまったかのように、私は無疵の可能性をかかえたまま、彼女との交際をゼロからやり直すこともできただろうに。新しい世界、そこには古い世界のものは何ひとつ残っていない........いや、一つだけ例外がある。ジルベルトから愛されたいという願いだ。私は理解した。満足を与えてくれない周囲の世界を一新したいと私の心が願うのも、その心だけは変わっていないからなのだ。とすれば、ジルベルトの心も私以上に変わっているわけではない、そう私はひとりごちた。私は感じたのである。この新しい友情も、結局前と同じようなものなのだ。ちょうど新しい年が古い年と溝で隔てられているわけではないように。そして私たちの欲望は、新しい年に達することもそれを変えることもできないままに、これに勝手に別な名をはりつけるのである。私がこの新しい年をジルベルトにささげても無駄であった。またよく人が自然の盲目的な法則に宗教を重ねあわせるように、元日について作りあげた特殊な観念をこの元日に刻印しようと試みても、どうにもならなかった。元日は自分が元日と呼ばれているとも知らずに、私にとってはいっこうに変わり映えのしないやり方で、たそがれのなかに暮れてゆこうとしているように感じられた。なぜなら広告塔のまわりに息づく心地良い風のなかに私は認め、また感じとっていたからである。永遠に変わることのない共通の物質、いつもと同じ湿り気や、古い日々そのままの無心に流れるものがふたたびそこにあらわれているのを。



承知の通り、元日はなにもそれだけが特別な一日として存在しているのではないということを伝えているのであるが、ここで面白いのは、元日という特殊な日を目の前にして自分の心がこうありたいと願い、変化を求めるということが、結局のところ古い年からの延長でしかあり得ないというところである。さらに、新しい年への願望は何も自分がそうだからといって、相手にも自分と同じような変化を期待することは虚しく、むしろ元日は通常の一日の延長であるのだから、ことさら何も変わることなど皆無だと考えるほうが普通なのである。もっともプルーストに言わせれば、何も変わらないばかりか、無論、心ない方向へ深刻さを増すことだってあり得るのだろう。

今日(と書いた時点で24時をまわってしまっているが)は2012年1月1日、元日である。昨日、何かに取り憑かれたかのようにプルーストが元日について書いていたことを思い出し、ベッドの下から一冊のノートを引っ張り出してきたのだが、一連の紙は湿り気を帯び、若干カビ臭い匂いすらした。4、5年前に集英社の抄訳を読みながら気に入った箇所を書き込んでいたノートである。上記はそのメモを見ながら引用したのでおそらく微妙な差異があるかもしれない。訳は鈴木道彦氏。

私はこの4月で30歳になる。30歳といえば、あるものに関してはおそらくもう手遅れ、またあることに関してはまだまだこれからといった年齢なのだろうか。よく聞くのが、30歳になったらあれこれの夢を諦める、という発言。なんというか、節目なんだろうとは思う。年間400本近い映画を観ても、それがなんの役にも立たないことに気付く、というような。私の場合はこれといって特別な感情は今のところ持ち合わせていない、と思っていたのだけれど、誕生日が近づくにつれ、何か気持ちに変化があらわれるのではないかと、ふと不安になったところからこうしてブログをつけることに決めたのである。

ただブログを書くと言えばおそらく惰性で更新しながらフェードアウトする可能性が高いので、誕生日の4月20日までは毎日このブログでなにかしらのアクションを起こすことと、主に好きなものについて書くこと。この二つを当面の目標に掲げておきたいと思います。トラックバック機能のないサービスを果たしてブログと呼べるのか疑問ではありますが、ここはデザインの融通が利いて投稿画面がとても使い易い。そして、好きなものについて書く、という理由を明日書くことにする。ブログの表題は即興ですが、気に入っています。と、ここまで読み返してやはり表題はどこかおかしいのではないかと思い、保留にする。



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