以前書いたカヒミ・カリィの記事(彼女のいじらしいハミングはいつだって魔法のようだから)でも触れていましたが、「Lolita Go Home」は私にとって少し特別な曲。初めて聴いたのは中学生。歌っていたのはジェーン・バーキンではなくカヒミ・カリィだった。CMで見た姿にひと目惚れし、近所にあった中古屋のカヒミ・カリィのコーナーから『Girly』というアルバムをジャケ買い。当時はジャケットの謂れも、2曲がカバーだということもまったく分からぬまま、同じ日本人とは思えぬ綺麗なお顔と、それまでの人生で一度も聴いたことことのない不思議な歌声にすーっと引き込まれてしまった。衝動的に手に入れたCDが日本語の歌ではなかったので少し戸惑ったけれど。洋楽のCDも一枚も持っていない頃。フランス語とスペイン語の区別もつかなくて読めないのだし、そもそもフランス語を耳にすること自体が初めての体験に近かった。 最初に気に入ったのが2曲目の「Lolita Go Home」だった。ファッション誌で目にする「ロリータ」という単語が入っているという他愛のない理由から。(私は「CUTIE」と「ZIPPER」を購読していた。懐かしい!)ナボコフの小説は読んだことがなく、元々の意味など把握しているわけもない。勿論キューブリックの映画を初めて観たときも相当勘違いしていたのだし。当時は完全にファッション用語だと思っていたから、訳詞を見ても娼婦だとか紳士がヨダレなんて出て来るし正直あまりピンとこなかったけれど、「ロリータ、ロリータ・ゴー・ホーム」と口ずさむのには時間はかからなかった。ちなみに『Girly』の歌詞カードにはロリタ、と記載されている。ロリータともロリィタともロリヰタとも書けば、また違ったニュアンスになる日本語の妙。
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ジェーン・バーキンのアルバム『Lolita Go Home』がリリースされたのは1975年。ジェーンはすでにゲンスブールとの連名で数枚のアルバムを発表していたけれど、このアルバムはすべての楽曲をゲンスブールが手掛けているわけではない。作詞は映像作家のフィリップ・ラブロによるものが大半を占める。「Lolita Go Home」はゲンスブール作曲、アルバムのオープニングを飾る曲。歌詞にはゲンスブールをそのまま連想させる紳士が登場するけれど、作詞を担当したのはラブロのようだ。
ジェーンの声はなんと形容すれば良いのだろう?私はウィスパー・ヴォイスが大好き!年代を問わずウィスパー・ヴォイスにはガーリーなイメージとノスタルジーが交差する。可憐で儚げな少女を思わせる、弱々しくどこかぎこちない歌い方。もちろんウィスパー・ヴォイスと言っても、砂糖菓子のように甘い歌声もいれば、涼しげな声もあるし、時には毒を持ったアーティストもいる。
ジェーンの声は衝撃的だった。ウィスパー・ヴォイスと括ってしまうにはあまりにも個性的で大胆だとも。官能的な吐息。ジェーンの歌声はジェーン・バーキンの声としか説明がつかない。ジェーンの魅力のひとつに英国訛りのフランス語がある。歌手としてのジェーンを評価する時にも、英国訛りのフランス語が掻き立てる効果云々など書かれていることが多い。正直私は発音のことはよく分からないので(初めて聴いたウィスパー・ヴォイスの女性歌手がカヒミということもあって、フランス語の響きと囁き声に親密な関連性を見出してしまいたくなるのだけれど)、やはりジェーンの歌声の魅力を引き出したのはゲンスブールの歌唱指導によるところが大きいのだと思う。官能ともの憂げな少女が綯い交ぜになったロリータのイメージ。もちろん単純にオツムの弱い尻軽娘ではなかったから、ジェーンは歌手として開花していったのだけれど。
YouTubeより、素晴らしい動画!(どうやら貼付けコードが無効のようです。こちらよりYouTubeへアクセスするとご覧になれます)「Lolita Go Home」を歌うマーメイドのようなジェーン、29歳頃。TV番組のようです。一瞬ですが、ゲンスブールの姿も映ります。借りて来た猫のような歌い方が特徴的だったけれど、この時期は自我も芽生えた感じのファンキーな歌い方。私はファッションやメイク、スウィンギン・ロンドン時代のジェーンに惹かれている時期が長いけれど、年齢を重ねて成熟過程のロリータというオーラのジェーンも大好き!
下記の歌詞は『Girly』より
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みんなお上品ぶって あたしを振り返るわ
とくに女たち... どうしてかしら?
私の靴やソックスやスカートを じろじろみるの
そしてみんなあたしを"娼婦よ" っていうのが耳に入るわ
ロリタ、ロリタはお家へ帰る......
みんなどこまでもあたしを追ってくるわ
フリッパーの玉みたい
鉄の機械の中で
バカみたいにぶつかりあっている
あたしはバックの中に 厚紙も紐も全部つめたの
みんなの皮肉に もう耐えられなかったの
ロリタ、ロリタはお家へ帰る......
雨戸は閉まっていたけど あたしは視線を感じていたの
だからあたしは背を曲げて 駅へ行ったわ
みんな、あたしのことを
恐ろしいやつだったっていうと思うわ
あたしは 女たちがギッシリ列をつめて
コーラスを 叫んでいるのをみたわ
ロリタ、ロリタはお家へ帰る......
食堂車で あたしは紅茶を頼んだ
別に何もしていなくて
足を開いて坐っただけ
それなのに あたしの前で
老いぼれの紳士が よだれを流しているわ
そしてあたしは 汽車の音を聞いたの......
ロリタ、ロリタはお家へ帰る......
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