2013-06-24

60sイギリスのファッション・シーン、スウィンギング・ロンドン!『ジョアンナ』(1968年)


60年代のファッション、カルチャー・シーンに何らかの影響を受けて生きている。この歳になってもずっと憧れ続けているのだから我ながら飽きれてしまうのだけど、もはやあの時代に思いを馳せることは精神療養のような行為としか言い様がない。文学はビートニク、映画はヌーヴェル・ヴァーグ、音楽とファッションは英国を贔屓にしている。やはり60年代半ばのイギリス、スウィンギング・ロンドンの時代はファッション界、音楽界ともに華やかな顔ぶれも相まってひときわ眩しく映るのだ!


1968年のイギリス映画『ジョアンナ』はそんなスウィンギング・ロンドンの空気に思う存分浸ることができる。当時のファッション・シーンを心行くまで楽しむことも。物語自体はなんてことはない、美術学校に通う女の子が主人公の恋愛中心の能天気な青春ドラマなのだけれど、当時のロンドンの街並と、ファッション、アート、インテリアを彩るポップでサイケデリックな配色に彩られた映像が退屈させず、45年経った今でも色褪せない魅力が満載だ。音楽もなかなか凝っていて、馬鹿馬鹿しくしょうもない発想が最高にクールだったあの時代にありがちな、しかし美術と衣装と音楽はやたらとセンスが良いという映画の典型でもあろう。



主人公のジョアンナを演じたのはジュヌヴィエーヴ・ウエイト(Genevieve Waite)という南アフリカ出身のモデルで、長い手足と痩せた身体で着こなす原色多様使いのファッションがまァ素晴らしい。細く長い足はカラータイツがよく似合う。少年のような体型でショートパンツのスタイルが多いけれど、ぐりんぐりんに巻いたショート・ボブと強烈なアイ・メイクは女の子らしくてキュートだし、顔は好みが別れそうだが、着せ替え人形のようにめまぐるしく変わるジョアンナのファッションには感動すら覚える。ジョアンナを取り巻くメンズのファッションもお洒落!ジャック・ペランに似た芸術家を演じるクリスチャン・ドーマーが素敵!(「日本橋」と文字入れされた法被を着ている!)



冒頭、ロンドンの駅に到着した列車から大きなトランクを抱えたジョアンナがホームに飛び出して来るまでの映像の繋ぎ方、再び駅のホームで迎えるラストが秀逸だ。室内のシーンには当時のロンドンっ子も熱狂したであろうモンロー、バルドー、ジェームズ・ディーン等のポスターがさりげなく映り込む。ジョアンナが薄いピンク色のシフォンのドレスを着て漫ろ歩くロンドンの街、公園を駆け抜けるシーンは夢のような気分。スウィンギング・ロンドンの様相を垣間みることができるストリートにも感激。ジョアンナが友人と買い物袋をぶらさげて街を闊歩するシーンに登場するのは、60年代の代表的なデザイナーズ・ブランド「BUS STOP」だ。「ハロッズには何から何まで売ってるわ!」「ボンド・ストリートにグッチがあるわ!」という何気ない会話にもいちいち想像が膨らんでしまう。



しかしこの映画、二度目の鑑賞で単純で楽天的なだけの作品ではないと感じた。こっちへフラフラ、あっちへフラフラとすぐに男と寝てしまうあまりにもオツムが弱そうなジョアンナは、性の解放が叫ばれたこの時代の若者の象徴ともいえる(現在にも十分いそうだが)。60年代に性の解放を描いた映画は数多ある。しかし『ジョアンナ』はそれだけで終わってしまう物語ではないようだ。愛のないセックスに疲れたジョアンナは傷ついて涙を流し、愛する人は黒人であるがゆえの問題を抱え、中絶手術をした友人もなんだか自分が空っぽになってしまったみたい、と後悔する。美術史の先生が授業で言う、「バロックは古典主義への反抗でしかない」と。

セックス、中絶、黒人問題と、今更になってみればいかにも60年代的な映画のように捉えてしまいがちだが、ジョアンナの経験には現代の若者にも通じるストレートで普遍的なメッセージが込められている。『ジョアンナ』はまぎれもなく実直で優等生な映画だ。ファッションや美術の完成度を差し引いてもジョアンナの青春物語にどこか胸を打たれる想いがするのは、そういった強いメッセージ性のためであろう。本作のようにキッチュな60年代の愛らしいB級映画は、この先時代を重ねるごとにどんどん貴重になっていくのかもしれないし、未だDVD化されていない60年代の幻の映画たちに一作でも多く出会えるよう願う!



ジョアンナ
製作年:1968年 製作国:イギリス 時間:115分
原題:JOANNA
監督:マイケル・サーン
出演:ジュヌヴィエーヴ・ウエイト,カルヴィン・ロックハート,クリスチャン・ドーマー,グレンナ・フォースター=ジョーンズ,ドナルド・サザーランド,フィオナ・ルイス


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