2012-04-07

ジム・ジャームッシュ『ゴースト・ドッグ』(1999年)

少し前に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の記事でも似たようなことを書いたかもしれないけれど、ジャームッシュの映画のどこが好きなのかといえば、やはりジャームッシュ自身が好きなのだ。いつもロックスター然としていて、かっこいい映画を撮ってしまうジャームッシュが好きなのである。ジャームッシュの映画で感心させられるのは、鼻につくような気取りがない。細かい笑いも忘れず、キャラクターの作り込みもすごい。本当にかっこいい人はかっこいい映画を作れるのだろう。


ジャームッシュの日本好きは有名で、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は小津安二郎ばりのローアングルの長回しに始まり、『ミステリー・トレイン』の永瀬正敏と工藤夕貴の起用、そしてこの『ゴースト・ドッグ』は武士道について書かれた『葉隠』という本を題材にして、ゴースト・ドッグと呼ばれる殺し屋を描いた物語だ。『葉隠』という本は、享保元年(1976年)に鍋島藩士山本常朝が口述したもので、のちに三島由紀夫が『葉隠入門』という本を出して一般に広まった。

ここでも感心させられるのは、単なる日本かぶれのような作品ではなく、ジャームッシュ独自の世界に日本という要素をうまく取り込んで新たな世界を確立させているところ。「羅生門」の本や日本刀なんかも出てくるけれど、ジャームッシュのスタイルは変わらない。鳩、犬、フランス語しか話せないアイスクリーム屋、老人クラブみたいなマフィアといった脇役のキャラクターもすごい。この映画では最後に黒澤明がクレジットされていて、これはKUROSAWAに対するジャームッシュの弔意の表明なのだそうだ。劇中に「羅生門」の小説が登場するのも彼なりの敬意をあらわしているのかもしれない。


映画のタイトルには「The way of the Samurai」という副題がついている。文字通り武士道の精神に魅せられた物静かな殺し屋が主人公で、『葉隠』を読むシーンや銃を日本刀にみたてた所作はなかなか味があって唸らせられる。そしてやはりジャームッシュがただのアクション映画を撮るはずもなく、不条理やユーモアが散りばめられている。家賃を払わないマフィアというのも考えてみればいそうだが、普通の映画では見られない。しかしジャームッシュはそこまで描く。フランス語しか喋れないアイスクリーム屋とゴースト・ドッグの滅茶苦茶だが通じてしまう会話、パンチの効いた少女、そんな細かい笑いのジャブが繰り出される。そしてどうしても「すべて熟知」と書かれたTシャツで笑ってしまうわけだが、これも日本人へのサービスなのかもしれない。やはりジャームッシュはかっこいい。


ゴースト・ドッグ
製作年:1999年 製作国:アメリカ・ドイツ・フランス・日本 時間:116分
原題:Ghost Dog : The way of the Sumurai
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:フォレスト・ウィッテカー、ジョン・トーメイ、クリフ・ゴーマン、ヘンリー・シルビア、ヴィクター・アルゴ、トリシア・ヴェッセイ、カミール・ウィンブッシュ



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