クロディーヌ・ロンジェ(1942年-)はウィスパー・ヴォイスの世界最高峰とも言われるポップス歌手で、60年代後半から70年代にかけて活動していた。ウィスパー・ヴォイスといえどその個性は多種多様なわけだが、彼女の声はそよ風のように自然と耳に馴染む嫌らしさのない本当に可愛らしい声で、ロックやボサノヴァのカバーを女性らしい砂糖菓子みたいな甘さを残しつつ爽やかに歌い上げている。彼女はフランス人なのだけれど、母国語で歌われたものは少ないのでフレンチ・ポップスではなくソフト・ロックの括りで紹介されることが多い。しかも必ず名盤にあげられるほど人気が高いのである。
実は彼女の経歴についてはほとんど知らないも同然なのだが、だいぶ昔にピチカート・ファイヴの小西康陽さんがデビュー当時のカヒミ・カリィについて書いた文章のなかで、「クロディーヌ・ロンジェは恋人を銃で撃ったが、カヒミ・カリィはいったいどんなことをしてくれるのだろう」というような内容で締めくくったものをどこかで読んだことがあって、もちろんクロディーヌ・ロンジェという人は当時まったく知らなかったのだが、銃で撃ったとはどういうことだ?という小さな謎と衝撃が走ったことを思い出す。そして小西さんの言うとおり、クロディーヌ・ロンジェは恋人であったスキー選手を銃の暴発で死亡させている。殺人ではなく過失致死ということで事件は収束したが、その出来事を機に彼女は完全に表舞台からは消えてしまったのだった。草原のなかを小花柄のワンピースの裾をなびかせながら歩くという、このアルバムのジャケットのイメージからはまるでかけ離れた事件であるがゆえ、クロディーヌ・ロンジェという人は私にとってその清楚で可憐な歌声以外はまるで謎の人である。事実、彼女の歌声を聴けばそのようなスキャンダラスな出来事もくだらない戯言ぐらいにしか聞こえないのだから、彼女の声の魅力というのは何事にも代え難い奇跡に近いくらいのものなのだと思う。
やはり私はカヒミ・カリィにはじまり、ウィスパー・ヴォイスが大好き。そして今は小西さんの解説を読みながら、クロディーヌ・ロンジェが1968年に発表した『恋はみずいろ』というアルバムを聴いている。タイトルは言わずもがなポール・モリアで有名な曲、クロディーヌももちろんフランス語で歌っている。途中で台詞がはいるのだがその部分は英語で、訛りがなんとも言えず愛くるしい。小西さんがどの曲のどの部分のどの台詞が好きだとか事細かに語りたくなるという気持ちがすごくわかる。
私が一番好きなのは2曲目の「Happy Talk」で子どもたちとの掛け合いの箇所があって、そのときのクロディーヌの台詞というか子どもたちとの会話がこれ以上にないくらい可愛らしく、もう私は彼女にメロメロなのである。そのほかにも1曲目はクラシック映画の名作『嘆きの天使』でデートリッヒが歌っていた曲のカバーで、冒頭からクロディーヌの魅力全開といった感じ。若い頃のデートリッヒは少しぽっちゃいりしていて歌もセクシーというよりは可愛らしい感じがして、『嘆きの天使』の彼女も大好きなのだけれど、クロディーヌの総じてガーリーな歌と台詞にはデートリッヒとはまるで違う『嘆きの天使』が見えるようでこれもまた楽しい。6曲目の「Who Need You」はフリッパーズ・ギターの『カメラ・トーク』に収録された「サマービューティー1990」でそのまんま使用されているのだが、さらにキュビズモ・グラフィコのアルバム『Tout!』の「Fairytale Of Escape」でもそのまんま使用されている。ウィスパー・ヴォイスの女神、クロディーヌ・ロンジェの魅力はまだまだ尽きそうになく、新たなをファンを巻き込んで語り継がれてゆくのだろう。そして、紙ジャケでの再発が決まったようで嬉しいです。
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